映画『ノイズ【noise】』の評判が気に食わないのでレビューする

レビュー記事

藤原竜也さん、松山ケンイチさん、神木龍之介さん、黒木華さん……という豪華キャストで注目されている映画『ノイズ【noise】』。マンガ原作です(未読)。
レビューサイトでは概ね3.2あたりの評価をつけられ、ページを開いてみれば演出やストーリー展開への批評が目立っているのが見受けられます。
「なーんだ、よくあるビミョー邦画の典型映画なのね。じゃあ見ないでいいや」と、サイトを見る人は思うことでしょう。
しかし「待った!!」と言わせてほしい。
あれは刺さる人には絶対に刺さる映画だ。いわゆる王道、分かりやすい「映画感」、心にガツンと来るものを求めている人には合わないかもしれない。
あえて言おう。そういう映画じゃない、アレは。
という訳でまずはネタバレなしの販促感想をさせてもらいますね。

何かこう、しんみりと暗さに浸りたい。今日はそんな気分なんだ。

結論。見出し通り、そういう人にオススメの映画です。
しかもここがポイントなのですが、非常に安心して観られます。この映画。
今日はハリウッドみたいなスペクタクル洋画アクションって感じじゃない、しかしほのぼの笑いたい訳でもない。そういう明るい気分とは違うけど、観た後しばらく這い上がってこれない程の鬱な映画を進んで選ぶ程アレでもない。
そういう人、どうぞ。こちらがお望みの品です。
コミック原作の邦画にありがちな寒いレベルのドタバタコメディ、なし。
サスペンスもの邦画にありがちな熱血刑事、なし。
藤原竜也にありがちな「とりあえず叫ばせときゃいいっしょ」、なし。
ツメはちょっと甘めとだけは言っておきます。推理ものみたいな展開を読む映画ではありません。
あと予告での印象は全く当てにならないので忘れましょう。
ほんわか平和な離島に突如おとずれた違和、そこから始まる死体バンバカ「どゔずれ゙ばい゙い゙ん゙だよ゙ォ!!!」「お前が犯人なんだろ!!吐け!!!!」離島の面々と警察との頭脳バトル!ダイナミックスペクタクル()逃走劇!!
……ではないです。

表現するならば、邦画の人間ドラマのリアリスティックとシンミリ感を残したまま、邦画よくあるなシャバさや毒気を抜いて、フリーホラーゲーム的なじわっと来る怖気をプラスして我が家の味を出しましたよ。という……日本の味を楽しみたいけどコッテリは嫌なんだよね、ちょっとだけ西洋のハーブとか自家製調味料も入れてこだわってみたから食べてみてくれる?みたいな。
雰囲気を楽しみましょう。




ネタバレありの感想

はい、ネタバレを交えつつ感想タイムに入らせていただきます。
正直言って……邦画でああいうタイプの映画が観れるとは思ってなかった。
邦画にありがちなオーバーリアクションとか臭い演出とか妙な感動シーンとか、そういうので食わず嫌い的に避けがちだったんですよね私。
豪華キャスト・漫画原作って時点でその手の嫌な予感がしてて、でも「しんみりと暗くて派手じゃないのがいい、できれば邦画で刑事もの」という気分でした。
それが大当たりよ。
決して傑作では無いと思う。ただ、キラリと光るものが沢山ある。
だから演出ガーとか監督なにやってんだーとか盛り上がりに欠けるとかホラーでもサスペンスでもとか、そういうレビューには物申したい。
そんな型に嵌めて良し悪しを判断するタイプの映画では無かったっしょ。
邦画のしっとりとした雰囲気をそのままに、こだわりとオリジナリティをしっかり詰めて、でも行き過ぎないように展開の盛り上がりは抑え目で。あくまでしっとり暗めの雰囲気づくりとリアルな人間描写を優先させて……そんな仕上がりだったように思います。

良きポイントを挙げていくよ

1.やりすぎず大人しすぎずのキーマン小御坂
こいつがメチャクチャパンチ効いてたね。明らかに頭イってんだろって挙動が大変良かった。
しかもやりすぎない。幼女を不審者剥き出しに観察、そして見当たらない恵里奈、ぼんやりとしか中が窺えないビニールハウス……。
イヤ勘弁してくれ、そんな酷いことしてたらそりゃお父さん激昂して殺しちゃうよ、死体できちゃうよォ!!いやだーーーーーー!!
……という展開には幸いならなかった。胸糞レベルじゃなくて観客としてはホッと一息。
でも圭太たちからしたら、むしろやることやってた方が正当性を主張できて良かったのかも。
いや、殺ることは殺ってんですけどね、保護司の鈴木を。
でもあの状況ではそのことは別問題で…島の為にも死体を隠すことになってしまい…っていう展開作りが上手いですよね~。
後に鈴木の死体が見つかって、本土から警察が押し寄せてきて大事になってくるってのもね。こんなヤツ隠しときゃいけんだろ、が段々難しくなってくるハラハラ感。
超絶不気味な強キャラのように見えてアッサリ死んでしまう、あの嘘だろ?やっちまった感もこれまたリアリティ溢れててねぇ。
そんな訳でこれが第1の良ポイント。やりすぎず、大人しすぎず。名キャラでした。

2.タイトルの入り方からして違う
あの男3人が並んで、どんよりとしたBGMと共にカメラが引いていきビニールハウスを覗き込むような視点からの、静かに現れる赤文字の【noise】には本当に胸が熱くなった。
何だコレ!?私が見てるの邦画だよね!?しかも漫画原作の!!うわぁこれ何か違うぞ!これはきっと良い映画だ!今の私の気分にピッタリの良映画だ絶対!!!
という気持ちにさせてくれる、邦画としては異色の入りだったように思います。
(私がニワカなだけだったらゴメンナサイ)
これは暗くて地味な映画で、でもお前らが思ってるようなのとは違うのを見せるからな。っていう主張がビンビンに出てる、そんなタイトル導入シーンでした。

3.キモイ島と主人公
言っちゃナンですけどまぁ、ステレオタイプな駄目な田舎感。一人の男に島の新しい特産を作らせ島民の中でそれを手伝うのは幼馴染と家族だけ。それで金が入ってもやるのは島の利便性向上で、肝心の特産品には投資なし。
何か使命感を持っちゃってる若者はおだてておけば何とかしてくれるやろ、私らはその恩恵にあやからせてもらうわ!という無責任で身勝手で冷たい応援。
狭いコミュニティにどっぷり漬かり込んで、溶け込んで、こじらせちゃってる主人公・圭太。
昔から一緒にいて苦しみも悲しみも共に味わった幼馴染と結婚。子供も出来て、昔ながらの日本家屋に住んで、農家として働いて、自分の作った黒イチジクで島の皆を救うんだ。
『リアルな人間ドラマもので、日本の田舎が舞台で、なんか凄い主人公のキャラを作ってください』って言ったら出来上がりそうなヤツ。
島の為ならなんだって出来るスーパー主人公。
実際そんなのが目の前に居たら死ぬほど胡散臭いであろうその男を、生んだ島。
いやぁ~キモイですね。

4.音楽
キモイと言ったらこれもでしょ。小さい島で無遠慮に大音量で流れるクラシックとアナウンス。
映画のバトル・ロワイアルを思い出した。空気を読まずに明るくて、それが不気味で。
その1日の始まりから普通に穏やかな展開になることもあれば、不穏な時もあって。何が起こるのか分からないあの感じ。好きです。
あと何気にオリジナルのサントラの方もこだわりがあって凄いです。
だってBGMの出だしが全部「テレン♪」のバージョン違いなんですよ。何じゃこれ。観てる時は全然気が付かなかった。おもしろ。ちょっと試聴ページ行って聞いてみてください。

5.好きです、刑事さん。
あの黒トレンチともっさいオールバックとクドめの顔でもうあたしゃ撃ち抜かれましたよ。ええ。
「あら良い男!刑事さんちょっと、今夜お食事でもど~お?」とか言いたくなったわ。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ気取った感じのファッションがイイよね。泥臭い刑事さん、じゃないし超絶切れ者の刑事デカというほどでもない。
ドラマの刑事とリアルっぽい刑事を7:3くらいで混ぜたような、あの絶妙なキャラ感。好きよ。
捜査の仕方もね、気付くべきポイントはしっかり押さえてて、最初っからコイツは怪しいぞっていう山勘もバッチシで。かつ、ほんのちょっとだけ控えめというか。そこが上手かった。
メタな話かもしれませんけど。だって畠山が「コイツは怪しい!指紋を調べろ!ルミノール検査だ!不審な場所は全部、科学捜査で洗ってしまえ!」てやったら主人公サイドはもう詰みだし。
捜査本部ではもう「凶悪犯・小御坂が殺人を犯し島内で逃亡中」の構図が出来上がってしまってたからこそ「犯人死亡、島民が隠蔽中」の畠山が孤立してしまったんでしょうね。
そんでベテランなオッサンだからこそ、「ここで強く主張した所で厄介払いされるか、強制的に捜索部隊に突っ込まれちまう」と判断して独自捜査を始めた、と。
まぁ実際、畠山たちは小御坂関係の別件で何か追ってたような感じだったしね。
何かの因縁はあったんだろうけど、でもそれに囚われすぎない。数々の事件を追ってきたからこそ一つのことに執着しすぎない。でも思う所はあるので、その気持ちは大事にする。
そんな熟成されたオッサン成分の妄想電波をキャッチする闇堂であります。

6.田辺 純!!!!!!
はい、本題です。この男よ。
過剰なまでにモッサイ格好で田舎に溶け込みきった主人公ファミリー、爽やか好青年の真一郎、そこに交わる渋い髭面の伊達男、純!!!!!
もう見ただけで分かる、クールでリアリストで斜に構えたアブナイ男だと!!純!!!
東京だったら死ぬほどモテるだろうにな、純!!!!!!
もーねぇ、もーねぇ。あの純の作業場のさぁ。東京のオサレな古着屋か!とツッコミたくなるほど素晴らしいセンスのインテリア。あれだけでマジ異彩を放ってるもん。あそこだけ別世界だもん。
それでライフル構えちゃって、子供にも優しくて、幼馴染の仕事も手伝ってさ。
島の人々と比べると浮いてるけど頼れるナイスガイでしょコイツ。いいじゃん…。
と思った末にアレですよ。
いや、まぁそうなるわな…ではあったんですけどね。
その収まるべきところに収まった、因果応報な感じが堪らなく好きというか。
うんうん、そうだよねぇ。そうなるよねぇ。良かったね、純。ってパッと思っちゃう人は割と居るんじゃないかしら。純サイドの立場になったことあるでしょ誰しも。
「君は素敵な人だ。君にしかない良い所は沢山あって、君を愛おしいと、凄いと思うよ」って誰にも言われることなく大人になっちゃったら、ああなるんだよ。
日本人は控えめで好意とか正面から伝えるの苦手な民族ですからね。そのくせ目立つ人間をヨイショするのは大得意。異分子を押さえつけるのも大好き。
圭太みたいなスーパー主人公がリアル日本に居て、斜に構えた純みたいな男が居て、それを狭いコミュニティに突っ込んでひたすらモブ扱いで格の違い見せつけられ続けてこき下ろされて。
ああもなる。
ただ、加奈に執着せずに島を出てれば幸せに生きれたんじゃないかとは思う。
純は島のこと大嫌いだろうし、何やかんや言ってビミョーなニオイがプンプンする加奈とも性格的に合うんだか疑わしい所である。
ただ、何もかもが彼にとっては衝撃的すぎて。それを打ち明けて慰めてくれそうな人が周りには居なくて。歪んだまんま「後戻りできなくなった」んじゃないかな。
ラストの畠山さんの言葉が刺さりますね。

まとめ

とまぁ、色々分かったような口振りで感想を書き綴ってみた訳なんですけど。
結局のところ分かんないですね。
他にも色々語れるポイントは沢山あって、人間のエゴとか日本社会の闇とかリアリズム追及のための長回し演出だとか。これ良いと思う!は大量にあるんですよ。
分かんないのは、結果的にそうなってしまったのか、それともそう意図してるのか、私の心に刺さった故に生じた忖度解釈なのか。
私としてはメチャクチャ純に感情移入しちゃいましたね。その結果、スタンダードや王道やヒーローだけじゃなくて広い目と多様性で物事を見るべきじゃないか。そのせいで生まれる不幸や零れ落ちていくものがあって、それはとても悲しいことだから。という感想を抱きました。
しかし結局それも純サイドだからこそ生まれるエゴでしかなくて。
人によってどう思うかは人それぞれだよね、という当たり前の言葉を付け加えさせてもらう。

ただ、私からすれば『分かってない』批評が目につき、それで「やっぱいいや」と思われるには勿体ないぐらいに異色の味があって魅力的な映画だと思った次第でして。
そんなこんなで、『ノイズ【noise】』の布教と感想でございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました